腕時計は非常に精巧に作られているデリケートな製品です。どれだけ大切に扱っていても、長く使い続ければいつかは破損や故障が生じてしまいます。これは高級腕時計として世界的に有名なカルティエ腕時計も例外ではありません。
腕時計の内部機構(ムーブメント)の故障に関しては、定期的なオーバーホールをきちんと行うことでトラブルをある程度回避できますが、ケースやベルトのような外部パーツが壊れることもあります。
特に私たち時計修理工房への修理ご依頼が多いのが、カルティエの金属ベルトの破損やパーツの紛失。ベルトの破損は交換修理でしか対応できないお店も多く、高額なため依頼をためらってしまうというお客様も多いようです。
そこで今回は、当店がカルティエベルトの新しい修理方法として導入している「ベルトの溶接修理」についてご紹介したいと思います。
カルティエ時計について
カルティエ(Cartier)は、1847年にフランスで創業された高級ジュエラーとして知られていますが、腕時計メーカーとしても高い評価を受けています。
洗練されたクラシックなデザインと精密な技術の融合が特徴で、ジュエリーブランドならではの宝飾品のような繊細な意匠も魅力です。最も長い歴史を誇る代表作「サントス」をはじめ、「タンク」や「パンテール」など、多くのアイコニックなモデルを展開しています。
なお腕時計ベルトには金属や本革・合成皮革など様々な素材の製品がありますが、カルティエの腕時計は金属製ベルトが主流ですので、本稿は金属ベルトの使用を前提にした内容となっております。
ベルトの故障・トラブルの種類
それでは本題の、腕時計ベルトの故障についてご説明していきたいと思います。
カルティエ腕時計のベルトで見られる代表的な故障やトラブルは次の通りです。
ベルトピンの外れ・破損
腕時計の金属ベルトの多くは、小さな金属コマが多数連結して1本のベルトを形作っています。硬い金属製のベルトが自在に曲げて手首にフィットできるのはそのためです。
この金属コマは一つ一つに小さな穴があいており、その中をピンと呼ばれる細長い金属棒が通っています。このピンが軸となってコマ同士をつなぎ、動かせるようになっています。
腕時計ベルトの破損で多いのは、このピンが外れたり変形したりしたというものです。ピンとコマは常に触れ合っており、またベルトを着脱したりするたびに外力がかかるため、長期間使い続けると摩耗や劣化が起きます。
また外力だけでなく、ピンの腐食が原因で、劣化や変形を起こすリスクもあります。時計の使用後は必ずベルトについた汗や水分を拭き取り、腐食が起きないよう気をつけましょう。
摩耗・劣化したピンは緩みにつながり、何らかの力がかかった時に穴から外れてしまいます。またピンが途中で折れてしまうこともあります。(ピンが緩んでくると端部がベルトの側面からはみ出してくるので分かります)
ピンが外れたり折れたりすれば当然、ピンにつながれていたコマはばらばらになります。そうするとコマを落として紛失したり、最悪の場合はベルトが切れて腕から時計が落ち、時計まで破損してしまうケースもあるのです。
バックル(中留め)の破損
腕時計を着脱する時に締めたり緩めたりする、留め金の部分をバックルといいます。
革ベルトのバックルというと、枠と一体になった細いピンをベルトの穴に通す「ピンバックル」が主流ですが、金属製ベルトでは、ベルトの途中にあるバックルの部分を折りたたんで留めるとベルトが締まり、バックルを広げるとベルトが緩むという仕組みが一般的です。片開き式・両開き式など様々なタイプのバックルがあります。
このバックルも、金属ベルトの破損しやすい箇所の一つです。
毎日行う時計の付け外しのたびにバックルには力がかかりますので、目には見えなくてもかなりの負担がかかっています。付け外しを繰り返しているうちに金属疲労によって留め金が変形して緩んでくると、バックルがきちんと留まらなくなります。留め金のロックが甘いと、気づかないうちに時計が手首から外れて落ちてしまうかもしれません。
また片開き式バックルの中には可動部が薄い板状のパーツで構成されているものもあります。頑丈な金属とはいえ、これに無理な力がかかるとパーツが曲がったり、接合部分が破断したりする恐れがありますので注意が必要です。
ネジや突起部の破損
ピンやバックル以外の破損しやすい部位としては、ベルト内部に使われている小さなネジ、コマの連結部分、ベルトに溶接された突起部や装飾などがあります。これらも外からの強い力や長年の利用による金属疲労、腐食などによって破損しやすく、取り扱いには注意が必要です。
もし破損してしまった場合、これらの修理をお客様ご自身で行うことはまず難しいので、パーツを紛失したり他のトラブルに波及したりする前に、早めに専門業者に修理を依頼してください。
コマ・パーツの紛失
時計ベルトを構成するコマやピン、パイプ、ネジなどのパーツを紛失してしまったというご相談も多く頂きます。普通に使っているうちにパーツがなくなるということはほぼありませんが、上述したピンの抜けやバックルの破損などが起きた時に、外れてしまった小さなパーツが行方不明になるケースが多いようです。
パーツを紛失された場合、代替できるパーツが入手できれば修理はそれほど難しくありませんが、もしパーツがない場合は、別の似た部品を使ったり、別途パーツを作成したりするといった対応になります。
サイズが合わない
時計の購入時には、ご自身の手首に合うように時計店にベルトの長さや締め具合を調整してもらったかと思いますが、長く使っているうちに手首のサイズが変わり、ベルトが合わなくなるというケースは珍しくありません。きつすぎても緩すぎても装着感が悪くなりますので早めに調整対応することをお勧めいたします。
革ベルトは穴の位置を調整することで比較的容易に対応できますし、使い込むうちに手になじんでくるという特性もあります。
一方で金属ベルトの場合はコマの付け外しで長さを調整するしかありませんが、専用工具や経験が必要になりますので、ご自分で行うのはハードルが高いと思います。時計修理店などに相談するのが良いでしょう。
ベルトに傷がついた
時計のベルトやバックルは常にむき出しになっている部分ですので、何かのはずみに硬いものに当てて傷つけてしまったり、毎日使う中で気づかないうちに傷がついていたりすることはよくあります。
何しろ高級なカルティエ時計だからと、文字盤の部分は絶対に傷つけないよう細心の注意を払っていても、ベルトにも同じくらい神経を使っているという方は多くないのではないでしょうか。
金属ベルトの場合、小さな傷なら研磨処理によってほぼ見えなくなりますが、研磨では消しきれない大きな打ち傷や凹みは違った対処が必要です。また素材や表面処理によっては研磨処理ができない場合もあります。いずれにしても専門の時計修理店に見てもらい、適切な修理を依頼するのが一番です。
時計ベルトの交換修理のデメリットとは?
前章でご説明したような金属ベルトの故障や破損を時計修理店に依頼した場合、軽微な補修で解決できる場合を除き、部品交換を行うのが一般的です。
金属という素材の性質上、一度変形や破損した部品を元通りに戻すのは簡単でなく、無理に同じ部品を使い続けようとするよりは新しいパーツに交換してしまった方が、工数的にも少ない負担で対応できます。
一方で、交換修理の場合は新たに部品を購入するため、修理費用が高くなる傾向があります。しかも破損状況によっては、ごく部分的な破損にもかかわらず、ベルトまるごと交換となるケースもあります。大切なカルティエを使い続けるためにはやむを得ないとはいえ、割高感は否めません。
実際、時計修理店で見積依頼したところ「メーカー修理交換でしか対応できない」と言われ、修理を見送ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まして時計ベルトは不可欠なものとはいえ、時計本体そのものではありません。あまりに高額な修理費用をかけたくないというお気持ちはよく分かります。
時計ベルトの新しい修理方法「レーザー溶接」
「金属ベルトを修理したい。でも高価な交換修理はためらわれる…」
そうお考えの方にぜひご提案したいのが、私たち時計修理工房で導入している「レーザー溶接」での修理です。
これまでは交換修理でしか対応できなかった、ベルトの切れ・バックルの破損・パーツの欠けといった金属ベルトの破損を、最新のレーザー溶接機を駆使して修理するものです。
今あるパーツを活かして修理しますので、交換修理に比べてはるかに格安で修理対応させていただきます。また、修理部位(破断した金属部分など)だけに直接レーザーを照射しますので、他の部分や時計表面に影響を及ぼすこともありません。
経験豊富な熟練の職人による細かな溶接技術で、精密なパーツも美しい仕上がりに。さらにレーザー溶接と金属加工により、破損・紛失されたパーツを新しく制作することも可能です。
「交換しかない」とあきらめかけていた大切なカルティエ時計の金属ベルトを、格安かつ短期間で美しく蘇らせる「レーザー溶接」は、おかげさまで全国のお客様からご好評を頂いております。
レーザー溶接の修理の流れ
「レーザー溶接で時計修理なんて、聞いたことがない」という方も少なくないかと思いますので、ここでレーザー溶接修理の作業の流れを簡単にご説明いたします。
状態のチェック
当店の時計職人が時計の状態を確認し、どのような修理が必要かをチェックします。
金属部分の切断や折れ、破損などはレーザー溶接による修理が必須です。症状や修理内容を確認した上で、溶接修理の職人に時計を引き渡します。
パーツの作成
コマやパーツの破損・紛失などの場合は、パーツの作成が必要です。
金属片から必要な寸法を切り出し、職人が熟練の技術で加工していきます。ステンレス・チタン・K18などの金属素材から、修理する時計に合わせて適切なものを選びます。
レーザー溶接
最新のレーザー溶接機を使って溶接作業を行います。
溶接機内部はアルゴンガスで大気から遮断しており、強度が高く美しい溶接が可能です。
破断しているほんのわずかな部分にレーザーを照射して溶接していきます。少しでも溶接部分がずれると強度が出ません。
また状態に応じて、溶接部分に同素材の差しロウをします。
後処理・仕上げ
溶接した箇所のすす汚れを取り除き、研磨や後処理を行います。
最終の仕上がりを良くするために欠かせない重要な作業です。
レーザー溶接 ご紹介動画
より詳しくお知りになりたい方は、こちらの動画をご覧くださいませ。
カルティエ時計のベルト修理なら時計修理工房にお任せください!
カルティエ時計ベルトの修理について、レーザー溶接を中心にご説明してきました。
ここまでご覧いただいた皆様は「実際のところ、レーザー溶接でどのくらいきれいに仕上がるの?」という点が気になっているかと思います。以下のページで、レーザー溶接の修理事例を写真付きでご紹介していますので、ご関心のある方はぜひご覧くださいませ。
また、品質・コスト面とも優れたレーザー溶接修理ですが、もちろん時計修理工房では、レーザー溶接以外の時計ベルト修理も対応しております。お時計を拝見すれば症状に合った最善の修理方法をご提案させていただきますのでご安心くださいませ。
カルティエ時計のベルトの破損・故障でお困りならぜひ一度、時計修理工房にご相談ください。
お近くの店舗にお越しいただいても結構ですし、ご多忙でなかなか出向けないという方には送料無料の「無料見積発送パック」をご用意しております。まずはお見積りから丁寧に対応させていただきますので、皆様のご利用を心よりお待ちしております。