できることならいつまでも、美しく無傷の状態で使い続けたいIWC腕時計ですが、日常的に身に付けていると、どんなに丁寧に扱っているつもりでも気づかないうちに小さな傷や汚れが付いてしまうものです。しかしそんなIWC時計も「研磨」を行えば、元の美しさを取り戻すことができます。
今回はIWC時計の外装研磨について詳しくご説明していきたいと思います。
外装研磨とは
「外装研磨」とは腕時計の修理作業の一つで、時計本体の外装部分、特にケースやブレスレットの表面を専用の工具で磨いて、表面に付いている細かい傷や汚れ、錆などを取ることをいいます。時計修理業界では単に「研磨」と言うことが多く、他に「仕上げ」「ポリッシュ」などと呼ばれます。
自動車やバイクでも、車体や金属部品の表面を磨いて表面を美しく仕上げる工程がありますので研磨と聞くとこちらを思い出す方もあるかもしれません。
研磨仕上げの種類
IWCをはじめとする金属製の腕時計に用いられる表面仕上げには、主に次の3種類があります。どの時計でも全部ツルツルにすれば良いのではなく、時計の各部位に合わせて適切な研磨仕上げが必要です。
ヘアライン仕上げ
ヘアライン仕上げとは、腕時計のケースやブレスレットの表面に、単一方向に髪の毛ほどの微細な線状の傷を付ける仕上げ方法です。
ヘアライン仕上げは、独特のマットな質感と光沢感を抑えた落ち着いた印章を生み出すと共に、相対的に鏡面仕上げ(後述)の光沢をより際立たせ、造形にメリハリを持たせる効果もあります。
また、この仕上げは微細な傷を入れることで指紋や小さな傷が目立ちにくいという利点があり、高級感を保ちながら実用的な耐久性も兼ね備えています。
長期間使用しているとヘアラインが薄れてデザイン性も落ちてくるため、研磨仕上げを行う必要があります。
サテン仕上げ
サテン仕上げとは、金属部分の表面に、非常に狭い間隔で多数の細かい傷を付ける仕上げ方法です。「筋目仕上げ」とも呼ばれます。
表面にあえて傷を付けるのはヘアライン仕上げと同じで、傷が目立ちにくいなどヘアライン仕上げと同様の特徴を持っていますが、傷の長さがヘアラインよりも短く、また単一方向ではなく多少ランダムに入っているのが違いです。
仕上げ面が絹地(サテン)に似た質感を持つのが特徴で、反射がなく、独特の渋い光沢感が生まれます。これも鏡面仕上げの光沢とサテン仕上げの艶消し部分とのコントラストが美しく、腕時計の様々な部位に用いられます。
ポリッシュ仕上げ
ポリッシュ仕上げとは、金属部分の表面を鏡のように磨き上げる仕上げ方法です。
上述の2つの仕上げとは逆に表面の傷を完全に取り除くもので、より高度な研磨技術が要求されます。「鏡面仕上げ」とも呼ばれ、その名の通り表面はピカピカになりますので、仕上げ後の時計を初めてご覧になる方はその美しさに驚かれると思いますよ。
高級感のある美しい光沢は、装飾品としての豪華さや存在感を増す役割を果たします。そのため高級時計に施されることが多く、ケースやブレスレットのサイドやエッジ、部品の仕上げなどに用いられます。
一方、仕上げ部位に指紋や小傷が付くと目立つため、とりわけ丁寧な取り扱いが求められます。
時計の外装研磨の実例
ここで、外装研磨することで実際どれくらい見た目が変わるのかを写真でご覧いただきたいと思います。いずれも左が研磨前、右が研磨後です。
※写真をクリックすると拡大表示されます。
ロレックス サブマリーナ
オメガ スピードマスター
IWCの外装研磨が大切な理由
IWC腕時計は、世界的な高級腕時計にふさわしい格式を備えた美しい外装が魅力の一つです。IWC愛好者としては、この外装を一日も長く、美しい状態で維持しておきたいという想いは当然あるでしょう。
一方で私たちは、IWCを日常的に使用する中で、意識していなくても様々な物に時計を当てています。
手首に着用している時計を、何にも触れさせずにいるというのは現実的に不可能です。机にぶつけたり、ドアや窓の開閉時に壁に当たったり、他のアクセサリーに当てたりと、色々なシーンが考えられます。
こうした時計と物との接触によって、IWC時計の本体ケースやブレスレットに、ぱっと見ためには分からないほどの細かい傷を付けてしまうことがあるのです。
IWCはどのモデルも非常に丈夫に作られており、普通に使っていればそう簡単に破損することはありませんが、金属である以上、こうした小さな傷は避けられず、これはどれだけ大切に使っていても起こります。
そして「ほんのちょっとの傷だから」「目立たないから」と放置していると、傷や汚れが目立つようになり、光沢が失われるなど外観が劣化していく恐れがあります。
さらにそこに汗や水分がたまれば錆の発生の原因にもなり、せっかくのIWCの価値を損ねてしまいかねません。
また劣化までいかなくても、研磨によって外見がリフレッシュされて新品のような輝きや高級感が復活すれば、お使いのIWCへの愛着がより一層深まるというもの。
IWCを長く美しく使い続けるためには、定期的に表面の傷みがないかをチェックし、必要に応じて外装研磨を行うようにしましょう。
IWCの外装研磨に必要な工具
IWC時計の外装研磨を行うためには、様々な工具が必要になります。ここでは代表的なものをご紹介します。
これらはIWC時計専用というものではなく、どのメーカーの腕時計の研磨にも使えるものです。またもちろん、これらの工具を巧みに使いこなす技術と経験が不可欠なのは言うまでもありません。
バフモーター
バフ研磨を行う際に使用する機械です。
布や綿、ウール、フェルトなどでできた「バフ」と呼ばれる円盤状の研磨輪を取り付けて高速回転させ、時計のケースなど処理したい部位を当てて研磨します。手作業の研磨よりも高速かつパワフルに研磨できるのがメリットです。また回転速度は調整できるようになっています。
バフの素材や目の粗さ、部品への当て方によって仕上がりが異なるため、目的に応じて使いこなす技術が必要です。
リューター
手持ち型のグラインダー(砥石を回転させて研磨・切削する電動工具)です。
器具先端の軸が高速回転するようになっており、ここに砥石やバフを取り付けて回転させ、金属部品の表面を研磨します。
細身で握りやすく取り回しが良いため細かい部分の研磨に向いており、研磨の部位や施工のしやすさによってバフモーターとリューターを使い分けることになります。バフの種類によって仕上がりが異なるのはバフモーターと同様です。
研磨剤
研磨面に塗布して磨くと小キズの除去や艶出しを行えます。
研磨剤には金属用やプラスチック樹脂用などの種類がありますが、IWC時計の研磨には金属磨きが用いられます。
精密工具
IWC時計の研磨を行う際は、ケースやブレスレットを分解して、一つ一つのパーツごとに研磨工具で丁寧に研磨します。
そのため、時計の分解・組み立てを行うための工具(ドライバー・ピンセット・オープナーなど)が必要です。
IWCの外装研磨の手順
IWCの外装研磨を行う手順は、大まかには次の通りです。
- 時計の分解
- ケースの研磨
- ブレスレットの研磨
- その他パーツの研磨
- 洗浄
- 時計の組み立て
こう書くと簡単そうに思われるかもしれませんが、小さな金属部品の表面やコーナーを研磨するのは熟練の技術と経験、慎重で精緻な作業が要求されます。
ほんのわずかのミスで、IWC本来の美しい装飾や仕上げを傷め、ブランド時計としての価値を損ねてしまいかねません。
以下のページで、一つ一つの手順を写真入りで詳しくご説明していますのでご関心のある方はご覧ください。
https://www.tokei-syuri.jp/repair/grind
IWCの外装研磨に関する注意点
自分で研磨しない
IWC時計本来の精巧なフォルムを損なわずに、本体のわずかな傷や汚れを取り、表面を美しく仕上げるという外装研磨は非常にシビアかつ繊細な作業であり、高度な技術と集中力、豊富な経験が必要です。工具が揃えば誰でもできるという単純なものではありません。
どれほど器用さに自信があるという方も、IWC時計の研磨はご自分では絶対に行わず、専門の時計修理店に依頼しましょう。
金属は一度削ってしまえば元には戻せないもの。費用を惜しんで自分で磨き、取り返しのつかない失敗でせっかくのIWCを台無しにしてしまうのは私たちも悲しいです。
研磨できない素材もある
時計の素材によっては、上記のような外装研磨ができないケースがあります。
例えば、時計表面にコーティング加工(PVD加工・DLC加工など)が行われているものは、研磨によってコーティングが損なわれるため研磨できません。
また、素材の特殊性からチタンやセラミック、サファイア素材も研磨ができないのでご注意ください。
過度の研磨は控えよう
研磨というのは金属表面を薄く削っているわけですから、何度も繰り返し行えば当然、わずかずつ部品は消耗し、エッジが丸みを帯びてきたり、金属板が痩せてきたりします。たとえ傷は取れても、見た目や耐久性の点では問題です。
必要に応じて研磨を行うのが大事とはいえ、一般に同じ時計の研磨は5回が限度と言われており、それ以上になる場合は部品交換を検討した方が良いでしょう。
IWCの外装研磨なら時計修理工房
IWC時計の研磨について様々な点がらご説明してきました。外装研磨とはどういうことをするのか、その理由や注意点などがお分かりいただけたかと思います。
お客様のIWC時計をいつまでも大切にお使いいただくためにも、気になる傷や汚れを見つけたら適切なタイミングで研磨修理されることをお勧めいたします。
IWCなど高級腕時計の外装研磨なら、私たち時計修理工房にお任せください。
時計修理工房では、創業以来50年という長きにわたり、IWCをはじめ海外・国内を問わずあらゆる時計ブランドの修理やオーバーホールを承っており、年間修理本数・約12000本という豊富な修理実績がございます。
東京銀座・大阪梅田に実店舗を構えており、また来店せずに見積や修理依頼のできる「無料見積配送パック」も多数のお客様にご愛用いただいております。
もちろんIWCの研磨実績も多数ございます。当サイトで事例をご紹介しておりますのでご参照の上、ご入用の際はぜひ時計修理工房にお問い合わせいただければと思います。腕利きの時計職人たちがお待ちしております。
当店のIWC研磨の「事例紹介」はこちらからご覧いただけます。
時計修理事例紹介(IWC・研磨)